キラリと光るキラっ人さん
キラっ人さん紹介
学べば学ぶほどやさしい人になり 誰もが生きやすい社会が実現します
- 二瓶 由美子さん
- にへいゆみこ
- 桜の聖母短期大学キャリア教養学科 前教授 株式会社福島銀行 社外取締役
東京都出身、結婚を機に福島市へ。子育てが一段落した40歳代で大学院を修了。桜の聖母短期大学でジェンダー法学を中心とした教育研究活動を展開してきた。現在は、福島銀行の社外取締役を務めるかたわら、市民団体「ダイバーシティふくしま」、NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福島」の活動などを通じ、「福島を日本一住みやすい地域」にするための社会貢献を続けている。
マイノリティー(少数派)も自分らしく
2016年3月で桜の聖母短期大学を退任しました。非常勤講師時代から約20年、私は学生たちに「学び続けることで、本当にやさしい人になれる」と伝えてきました。
例えば、「セクシャルマイノリティー」「民族マイノリティー」の問題。マイノリティー、つまり少数派は声をあげにくいので「いない」ことにされがちですが、実際には身近に存在していて「自分らしく生きたい」と願っています。私たちが視野を広げきちんと真実を知ることで、偏見や差別は減らしていけるのです。
40歳を過ぎてから、私が「大学院で学びたい」と思うようになったのは、PTA活動がきっかけでした。当時、市内に71校あった小中学校のPTAで女性会長は私一人。他の学校には「会長はやはり男の人」という暗黙のルールが根強くあったようです。また、「中学生の男子は必ず丸刈り」という当時の校則にも疑問があり、「ジェンダー(男女の社会的性差)」について考えるようになりました。
国が取り組み始めた男女共同参画推進も追い風になり、私は、数少ない女性のPTA会長として公の場(国の審議会など)で意見を求められることがしばしばありました。そこで、ジャーナリストや学者との出会いがあり、刺激を受け励まされるうちに「もっと学んで社会に役立つ仕事をしたい」という想いが強くなっていったのです。
「自分の才能を大切に」という励ましを受けて
大学院での研究は、興味深く、日々が充実していました。学びながら大学院の先生方に紹介されて、専門学校などで非常勤講師もしていました。「研究は誰でもできるけれども、教育は才能が必要。自分の才能を大切にするべきだ」と励まされ、就職活動をして、桜の聖母短期大学に専任教員として採用されたのが50歳手前のことです。
すでに自分の子どもたちは大学生になっていて、これからは「自分の人生を思い切り生きよう」と仕事に励み、本気で学生に向き合ってきました。教員としては厳しかったと思います。「私も一生懸命に準備をしてくるから、きちんと聞いてほしい。もし、不満があれば私に直接言って」と伝えていたので、学生もそれに応えてくれました。誠実に学ばない学生に対しては、容赦なく単位を落としましたが、フォローもしました。最終講義には、たくさんの卒業生が駆けつけてくれました。「あの頃は厳しい先生だと思ったけれど、社会に出てから、厳しさこそ優しさだと感謝しています」と書いたメッセージを読み、涙が出ました。本気で向き合えば必ず伝わるのだと思います。
芽を出した種が伸びていくには何が必要か
地元で働き続ける卒業生から「先生の授業で学び、経済的自立を大切にしたいと、子どもを産んでも働き続けています」と声をかけられることがしばしばあります。教育の場にいると理論が先行して現状が実感できません。ですから、「実際に社会に出た女性たちが直面する課題」についての研究や提言ができる現在の立場は願ってもないありがたい機会だとお引き受けしました。
女性活躍推進法の施行もあり、福島銀行でも女性活躍推進に本気で取り組んでいます。男性も女性も自分の力を社会に活かし、気持ちよく働いて、家庭生活の楽しさを分かち合えるような社会づくりのために、地域の課題をよりリアルに知り、課題解決に尽力したい。これまで撒いてきた種が、どんなふうに芽を伸ばしているのかを確認しながら、たくさんの花を咲かせるお手伝いがしたいです。
「自分の人生をあきらめない」ために
5年前の東日本大震災の後、東京に住む私の母が道に迷い保護されました。なかなか会いに行けない日々が続いているうちに、認知症の症状が出たのです。福島に引き取るか、それとも仕事を辞めて東京に行こうか、とても迷いましたが、母の住む地域包括支援センターの方がグループホームを勧めてくださって、現在は住み慣れた地域で適切なケアを受けて元気に暮らしています。このとき、公的なサービスを上手に使うことで「自分の人生もあきらめずに済む」ことを実感しました。母に会いにいく度に、職員の方が、私に対してもねぎらいや励ましの言葉をかけてくださることが心強く、人は人に支えられていると感謝しています。
研究を通して、子どもへの虐待について調べていると、必ず行き着くのが「関係性の貧困」です。経済的な貧困だけではなく、親が社会の仕組みや生活文化などを伝えていないことが問題を複雑にしています。困っている子どもと関わる「やさしいおせっかい」が増えれば、負の連鎖を断ち切ることができます。子育ても介護も一人でかかえこまないために、社会全体が関わっていくことが大切なのだと思います。
福島を日本一住みやすい場所にする
一方、なぜ女性が就労を継続できないのか? という調査研究を読んでいると、結婚・子育て・介護は「きっかけにすぎない」ということも明確になります。期待されない・納得のいかない仕事を続けるのに疲れてしまって、実際には乗り越えられるハードルであっても、それを理由にして辞めてしまう。だとすれば、職場で大切なのは、男性同様「期待される自分」を実感できる環境だと思うのです。その環境を整えるためには何が必要なのだろうか? これからも研究のテーマは尽きることがありません。
多様性について学び合い、発信する市民団体「ダイバーシティふくしま」やこども食堂などを運営するNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福島」などの社会活動に時間を割けるようになって、今はとても充実しています。震災があったからこそ、ここ福島を日本一住みやすい場所にしたい。人生のほとんどを過ごしてきた福島のために、小さなことでも自分の力を役立てていくつもりです。(2016年10月取材)