キラリと光るキラっ人さん
キラっ人さん紹介
働くお母さんを助けたい。わが子同様に子どもを保育したい 熱い思いで立ち上げた保育園。屈託のない子どもの笑顔が元気の源
- 山口 巴さん(特定非営利活動法人Lotus)
- やまぐちともえ
- 特定非営利活動法人Lotus 理事長
走りながら考えるタイプだという。使命感に燃え金融機関の管理職からNPO法人の理事長兼保育園園長に転身。土日曜祝日、延長保育や一時保育など、働くお母さんたちの仕事と子育てを力強くサポートし続ける。直近の夢は、保育に関わる人々の“人材バンク”の構築だ。開園から6年目の春に再びムクムクと使命感が湧きだした。
金融機関の管理職からNPO法人の理事長兼保育園園長に転身
平成22年夏、NPO法人Lotus(ロータス)を立ち上げ保育園を開設しました。コンセプトは、働くお母さんたちの仕事と子育てを力強くサポートする保育園です。現在、認可小規模保育施設「ロータス保育園」、認可外保育施設「ロータスキッズ」、屋内遊び場事業「赤ちゃん木育広場 もくれん」を運営しています。私が仕事と子育てを両立するなかで苦労したことを解決できるよう24時間対応できるようにし、サポート内容も通常保育のほか、夜間保育、宿泊保育、延長保育など多様に行ってきました。身近に頼れる方がいない方や「ほんのちょっとだけ預けたい」という場合も気軽に門を叩けるよう一時保育も行っています。
保育事業を始める前職は、金融機関の管理職でした。仕事が大好きだったので結婚しても妊娠しても退職なんてみじんも考えませんでした。1人目の子どもを出産するときは、子育てしながら働く管理職は前例がないと言われました。だったら「私が前例になればいい」と考えました。ところが、子どもを保育園に預けて働き始めると延長保育は午後7時まで。当時の私は、夕方になると終わらない仕事と時計とにらめっこ。迎えの時間に遅刻してしまうのが常でした。家族も都合がつかない時は、友人たちに片っ端から電話してお願いしていました。人生最大の岐路は、転勤の辞令でした。行き先は関西。2人目の子どもも生まれており、悩んだ末に早期退職制度を利用して39歳の時に退職しました。
土日祝日も預かる保育園。私がやらなきゃ誰がやる!
もともと独立志向が強かったので再就職という選択肢はありませんでした。どうしようか考えている時に、経験から、私以外にも仕事と子育ての両立で苦労している人が絶対にいるはずだと思いました。もし、困っている人が1人とか2人とかでも、そのお母さんたちが助かるんだったら本望だと思い、保育園を始めることを決めました。私自身は、保育士の資格を持っていませんが雇用はできます。私がやらなきゃ誰がやる!無いものはつくればいい!みたいな勢いで突っ走りました。保育園を始めることは、夫にも、父母にも、子どもたちにも相談しませんでした。ただ、夫がいたからこそ突っ走れたというのはあります。夫と父母がいるので私は、私がやりたいことだけを考えることができました。感謝しています。
開園当日、ロータス保育園(以下、「ロータス」という。)の園児はゼロ。職員は4人。毎日赤字でしたが、やはりニーズはありました。多様で柔軟な受け入れ態勢が奏功し、少しずつ園児が増えていきました。ロータスの力が最大限に発揮されたのが大震災の時です。もともと私たちの役目は、お母さん方の困りごとを引き受けること。しかもロータスに預けているお母さん達は、土日も働くサービス業に従事している方々です。どんなことをしてもお子さんを預かり、安心して働ける体制を整えたいと思いました。食材の調達がままならない非常事態時に、給食のサポートをしてくれたのは、義父母でした。農家なのでお米も味噌も何でもありました。安全なところを目指して会津に避難されて、中通りの会社に通う方もいました。帰ってくると午後10時くらいになってしまいます。私たちは、夕食を食べて健気にお迎えを待つ子どもたちを見守り続けました。
ベビーサインで育児を楽しく。屋内遊び場もオープン
私は、“三つ子の魂百まで”という言葉が大好きで、開園するなら保育内容にも心を配っていきたいと思いました。自分の育児で一番困ったのが、しゃべれない赤ちゃんが泣き続ける時でした。何かいい方法はないかと調べていた時に、まだうまく話せない赤ちゃんと簡単な手話やジェスチャーを使ってお話しをする育児法“ベビーサイン”に出会いました。
「これだ!」と思って資格を取り保育に導入すると、子どもたちも自分の気持ちが伝わるので落ち着くんです。以来、入園時にご両親とおじいちゃん、おばあちゃんも含めて“ベビーサイン”の有効性を伝えています。もう6年になるのですが、赤ちゃんも意志が伝わるので無駄泣きをしなくなります。お話しが出来るようになる頃には語彙が豊富で一気にあふれ出る感じです。楽しく育児が出来るだけでなく、「感動も共有できる」とお母さん方にも喜ばれています。
震災の後、赤ちゃんの木育広場「もくれん」を開所しました。それまで会津には、3歳くらいまでの小さな子どもたちが安心して遊ぶスペースがありませんでした。なんとか赤ちゃんとお母さんが安心・安全で、天気にも曜日にも左右されず遊べる場所を作りたいと思いました。またしても私の勝手な使命感です(笑)。震災や、ベビーサインでつながった東京おもちゃ美術館の館長さんに相談すると快諾をしてくださいました。温もりのある“木のおもちゃ”で遊ぶというスタイルができたのも東京おもちゃ美術館のおかげです。「もくれん」は、今年(平成28年)「静」と「動」とエリアを分けるリフォームをしたので春からは年齢制限なしで遊べるようになりました。
「私の時代にもロータスがあったら仕事を続けられたのに」
私は、前職で「前例がない」と言われながらも、周りのスタッフのおかげで2人の子どもを産み育てながら管理職を続けることができました。あの時のサポートを私は忘れません。「働くお母さんを助けたい」。ロータスの願いは、それに尽きます。最近では、お迎えに来られるおばあちゃんにも「私の時代にロータスみたいな保育園があったらなあ」と言われるようになり、元看護師だった方も「ロータスがあったら仕事やめないで続けられたのに」と言われ、思いが伝わっているなと感じています。子育ては、長い人生のほんの一時期なんですよね。その時期をしっかりサポートできれば、みんな働き続けられます。それは、ロータスで働く職員に対しても同じことが言えます。職員は全員女性で、そのほとんどが小さい子どもを育てながら勤務しています。ロータスに預けている職員もいれば、他の保育園に預けている職員もいます。子どもや本人などが体調不良の時は、「お互い様」の精神で助け合うのが当たり前になっています。妊娠・出産の時もそうです。確かに企業としては負担もありますが、それでも戻ってこられる環境にしておくことが大事なんです。
資格取得でスキルアップ。人材バンクで多様な働き方を支援
職場環境の改善は常に考えています。冬期間の除雪はとにかく大変です。そこで厚労省の業務改善助成金を活用して除雪機を購入しました。「ベビーサイン」や「おもちゃインストラクター」など、様々な資格取得も勧めています。職員のスキルアップは、子どもたちや保護者に対して還元され、保育のクオリティが高まり、良い影響があります。チャレンジしたい職員には、交通費と宿泊費の支援をしています。
平成27年には子ども・子育て関連法の改正がありました。保育ニーズも変化しています。ロータスも事業を精査し、平成28年度からは夜間保育を閉じることにしました。昼間保育の土曜、日曜祝日の開園は、これまで通りです。課題は、人材確保です。現在は、多様なシフトで対応していますが、より良い保育とより良い職場環境のためにも体制強化を考えているところです。私の場合、講師としてあちらこちらでお話もさせていただいており、そこが思わぬ出会いの場になることもあります。「働きたいけれど資格がない」という人もたくさんいます。そんな時は「どうすれば保育園で働けるか」を一緒に考えるようにしています。
今後は、出会いをつなぎ育む“人材バンク”の構築も私の使命かなと思っているところです。(2016年2月取材)