キラリと光るキラっ人さん
キラっ人さん紹介
ひらめいたら突き進むチャレンジャー 人のご縁と情熱の農業で生き甲斐をクリエイト
- 寺山 佐智子さん(株式会社 阿部農縁)
- てらやまさちこ
- 株式会社 阿部農縁 代表取締役
大正時代から続く農家の長女として生まれ、看護師・ケアマネージャーを経て平成19年に就農。たくさんのご縁を力に農業体験事業やインターネット販売など果敢にチャレンジしてきた。震災の年は、農家民宿をオープンさせるべく奔走し翌年オープン。積極的に6次化を進めながら法人化も果たした。夢は、農業を通して介護予防に貢献していくこと。
スキルは自分の時間とお金を使って磨くもの
阿部農縁は、大正時代から続く農家で私の実家です。家族は、私と夫、娘2人、私の両親と郡山で暮らす夫の両親です。就農して9年になります。以前は19年間、看護師として須賀川市内の病院に勤めていました。何があっても前に突き進んでいくパワーは、もしかしたら看護師時代に鍛えられたものかもしれません。スキルは、自分の時間とお金を使って自分で磨くものでした。当時の私は、日々の仕事のほかに専門職としてどのように自分を磨いていくか、いつも考えていました。難関と言われるケアマネージャーの資格取得にチャレンジしたのも、大好きな看護の仕事をもっと深めたいと思ったのがきっかけです。
私が農業について考えるようになったのは、ケアマネージャーとして働きはじめてからです。ある時、病気で農業ができなくなった患者さんの退院後のプランを立てるためにご自宅を訪問しました。目の前に広がる荒れ果てた畑と田んぼに言葉を失いました。私は、2人姉妹。農家の“4代目”と言われて育ってきたので、すぐに実家のことが頭をよぎりました。
私の使命は、食と農と人で元気を届けること
その頃、私は、子育てしながら共働きを続ける環境に限界を感じ始めていました。夫と義父母と相談し、上の娘が小学校2年に進級するときに須賀川の実家に引っ越しました。実家で毎日、採れたて野菜や母が作る漬け物を食べているうちに、大地の恵み、手作りの漬け物のおいしさ、農業の喜びをもっとたくさんの人に届けたいと思うようになりました。加えて、跡取りという使命感もありました。家族への相談は、子どもたちから始めました。看護師を辞めようと思っていることを伝えると大賛成! 子どもが賛成なので夫も賛成。義父母も賛成。最後まで反対していたのが私の両親でした。「せっかく資格を取って仕事も脂がのってきたところなのに」って。私は、やる気満々。週末は、福島県農業短期大学校(平成28年現在は福島県農業総合センター農業短期大学校)で開講している“新規就農研修”に通っていましたので前に進むだけでした。
平成19年に就農しました。毎月「農業体験」のイベントを開催していますが、農業体験で畑に入ると皆さん生き生きとしていました。活動をとおし“阿部農縁”イコール“農業体験”と言われるほどになりました。イベントを続けているとボランティアさんやサポーターさんがたくさん入ってくださるようになり助けていただきました。感謝の気持ちを込めて屋号を阿部農“園”から阿部農“縁”に変えました。私の使命は、食と農と人で元気を届けること。桃と梨、野菜は、農薬をできるだけ少なく、除草剤は一切使わず、土は有機肥料・たい肥を入れています。“福尽漬”などの加工品は、化学調味料を使わず無添加・国産素材にこだわって製造しています。
大震災以降、今もずっとチャレンジャーです
就農して3年ぐらい過ぎた頃ですかね。農業に従事するってことは、農業者として働くだけでなく、経営者にもならなきゃいけないと気づきました。そこから「どんな農業経営にするか」「どんな路線でいくか」を真剣に考えるようになりました。見学、視察を重ね、母が作る加工品を主軸とした路線で行くことに決めました。私のことですから、間髪入れずに加工に必要な営業許可をバッキバッキ取得していきました。
少しずつ軌道に乗り始めた頃、東日本大震災が起きました。以来、今もずっとチャレンジャーです。まず、福島を知っていただくには、福島に来て、食べて、空気に触れる場所が必要だと思い、平成24年3月に“農家民宿”をオープンさせました。これからは、企業との取り引きが増えると思い、補助金を得て法人化も果たしました。障がい者施設とのコラボ“須賀川古代米おやき”などの6次産業化も積極的に進めています。東京ビッグサイトで開催されている“スーパーマーケット・トレードショー”にも出店しました。そこで復興応援キリン絆プロジェクト「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト」とつながり、第1期生として1年間研修を受けることができました。さらに「ふくしま復興塾」にも関わることになり、現在、阿部農縁のデザイナー兼総合プロデューサーとして関わってくれている「(株)コンセプト・ヴィレッジ」代表の馬場大治氏と出会いました。すべて「人の縁」です。
懐深い男性陣のサポートに感謝。辛いことがあっても笑顔で
自分で言うのも何ですが、阿部農縁の魅力って主幹は女性なのですが、課題、難題、選択、商品開発、ネット販売など、何かを決めたり、解決したりしなければならない時に、懐深い男性陣のサポートがあるところだと思っています。まだまだ成長期と言いつつも、皆さんその道のプロであり経験豊富。クレームがあってもするりと納めてしまいます。見事としか言いようがありません。今年は、農業短期大学校を卒業した青年が阿部農縁に入社します。彼は、私のやり方を「僕がやりたい農業にかなり近い」と言ってくれているので期待しているところです。多趣味な会社員の夫は、定年後にトラクターの運転をしてくれる手はずになっています。こちらも楽しみです。
夢は、膨らむ一方ですが、元ケアマネージャーの視点からあたためているのが農業を通した介護予防です。阿部農縁をボランティアで支えてくれているのは、私の母の年代の女性たちです。高齢になったとしても仕事や役割があれば、みんなで集まって加工食品のシール貼りや袋詰めなどをしながら生き生きと過ごせます。漬け物もおいしい切り方とか味の出し方など、年配の女性ならではの素晴らしい技術を持っています。そうした技術に農業的な付加価値を付けていける企業体にしたい。年配の方の生き甲斐を創造していけるような場を作りたいと思っています。
もちろん使う野菜は、県が作成した農産物のPRコピー「ふくしまプライド」で伝えているようにしっかりと検査を済ませたものを使います。これだけ安全・安心にこだわっている県は、ほかにないと思います。徹底して調べているからこそのプライド。私は、そのプライドから福島ブランドが生まれていくと確信しています。その一翼を担うのが私たち農業者だと考えるとワクワクしてきます。皆さん、辛いことがあっても笑いましょう。そして仲良くしながら人生を楽しんでいきましょう。(2016年2月取材)