キラリと光るキラっ人さん

キラっ人さん紹介

33歳のリスタート。農業の世界で見つけたやりがい モットーは“作る人と食べる人を直で繋ぐ食卓に一番近い農家”

  • 須藤 愛美さん(有限会社南会津高原ファーム)
  • すとういつみ
  • 有限会社南会津高原ファーム 代表

亡き祖母の言葉に一念発起。33歳で農業の世界に飛びこんだシングルマザー。働く喜びを味わい始めた矢先の大震災。仲間と共に立ち上げた“チーム農魂”で、究極の困難を乗り越え、「夕市」で農業者とお客様の繋がりを育み続けた。農魂の活動を通して得た気づきを力に今日も畑と直売所に向かう。

乗り越えても乗り越えてもやってくる困難

 私の父は、大きな夢に向かって突き進むチャレンジャータイプ。母は、元助産師で、結婚してから養豚業、大規模農場「宝農産(有)」経営へと転向していく父をサポートしながら4人の子どもを育て上げたパワフルな女性です。父は、農場のほかに野菜の直売所も手掛けるようになり、さらに2009年、「これが最後の夢だ!」と言って「遊休農地解消総合対策事業(農林水産省)」を活用して南会津下郷町に広大な土地を求めました。夢に向かってどんどん突き進む父を母と共に支えていた祖母が2010年に亡くなりました。私が幼い息子を抱えて実家に戻り、シングルマザーとして再スタートしようと思っていた時で、それはあまりにも突然の出来事でした。祖母は、野菜の選別や袋詰めなど、何をやっても仕事が早く宝農産(有)を支える最強のスタッフでした。これからどうしよう…。あれやこれや考えている時に思い出されたのが「わげのためにがんばるんだぞ」という祖母の言葉でした。“わげ”に込められたものは、家、家族、私自身も含む言葉だと思い実家を手伝うことに。祖父、両親、二人の弟、私の息子の前で宣言した33歳のリスタートでした。

“チーム農魂”の夕市。1周年記念は黒山の人だかり

 早速、直売所の仕事を買ってでました。お客様に「おいしいね」と言われるとうれしくて、おいしい野菜で一人でも多くの人を笑顔にしたいと思って私なりに工夫するようになりました。共働きの女性客が多い直売所では、帰宅後すぐに料理を始められるよう皮をむいた小さな玉ねぎや小分けにしたブロッコリーを袋詰めにして販売しました。すると飛ぶように売れました。野菜を切る手間が省けただけでなく、生ゴミが減ったと喜ばれたんです。工夫するほど売れるので仕事が楽しくなりはじめた頃、東日本大震災が起きました。とにかくなんとかしなければなりません!以来、前に進むことだけを考えてやってきました。
 モットーは、“作る人と食べる人を直で繋ぐ、食卓に一番近い農家”です。野菜を作っている農業者の思いと直売所で聞くお客様の声を大切にしています。振り返ると、大震災が私たちを農業の原点に戻してくれたように思います。2011年は、艱難辛苦(かんなんしんく)の連続でした。動きを止めてはいけないと思い、細々と直売イベントなどを行っていました。でも、小さな動きでは、大きな集客に繋がらない。そこで翌年、地元近郊の若手農業者や栄養士、お手伝い仲間とで“チーム農魂”を結成。活動の目玉にしようと商品開発にも取り組みました。女子メンバーで夜な夜な集まって完成させた玉ネギベースの白いバーベキューソースがそれです。夏から始めた毎週火曜日の“夕市”で販売すると大好評!野菜も「フルーツのように甘いトマトです」「これは、生でも食べられるトウモロコシなんですよ」みたいに特長やおいしい食べ方も伝えるようにしました。SNSを利用して、お得な野菜の袋詰めなど情報発信も行いました。続けることで農魂のファンが少しずつ増えていきました。
 「やっていける!」と手応えを感じたのは、2013年7月に開催した1周年記念イベントです。農魂のファンで会場は、黒山の人だかり。うれしい悲鳴でした。メンバーとお客様のつながりも強くなったこともあり、夕市は、2015年5月で閉じました。HPとSNSで発信している旬の野菜やイベント情報を見たお客様から届くメッセージには、メンバーが個々に対応しています。

高原野菜のイチオシは、フルーツかと思うほど甘いトウモロコシ

 2016年から父の会社の体制が変わりました。宝農産(有)は、長男が後継者。(有)南会津高原ファームは、長女の私が代表です。父は会長になりました。現在私は、白河市と南会津の下郷町を往復しながら暮らしています。2008年に甲子道路が開通したので移動も苦ではありません。南会津の農場は、とにかく広いのが魅力です。畑に立つと気持ちが清々します。東京ディズニーランドの総面積が58町歩。ここの総面積は60町歩ありますからね。標高800mと高いので、標高差を生かした野菜栽培をしています。栽培面積順に言うと、一番広いのがアンチエイジングのスーパーフード“ブロッコリー”。続いてサンマのシーズンにドンピシャで収穫が始まる“高原大根”。これが瑞々しくて甘味があっておいしい!青々とした葉っぱは、油炒めにすると最高です。3番目が“トウモロコシ”。昨年は、南会津の畑の土と相性がいい品種を探りたくて14種類ほど植えてみました。イチオシは、もはやフルーツじゃないかと思うほど甘みたっぷりの“しあわせコーン”です。ほかにも“高原トマト”や“チャレンジ野菜”と称して、直売所に来られるお客様の声をヒントに珍しい野菜も作っています。“プンタレッラ(アスパラガス・チコリ)”や“エンダイブ”“ワイルドルッコラ”などのイタリア野菜もそうです。“紫小松菜”や“紫カブ”などの紫シリーズも作りましたね。野菜の種類が豊富だと直売所が華やかになります。

頼もしいパートナーのアドバイス。子どものサポートにも感謝

 直売所の数も増やしました。以前は4カ所でしたが、今は県内44カ所あります。最初に話しましたが、直売所は工夫するとすぐに反応が返ってくるのでやりがいがあります。野菜の袋を留めるテープも色ひとつで売れ方が違います。農魂を立ち上げる時に出会った私の頼もしいパートナーは、「常識にとらわれない」というのが口癖です。だから私の包装は、いつもほかの人とちょっと違うの(笑)。農場で働く女性たちのおいしいレシピも伝えたいので、直売所に入る時間も工夫しています。なるべくお客さまと直接話ができる時間を目指して出かけます。そんな努力が実って福島県の直売所売上部門で2014年度、2015年度と2年連続で県知事賞をいただきました。これはもう快挙でしょう。繁忙期に入ると忙し過ぎる母を見かねた息子が洗濯物を干してくれたり、取り込んでたたんでくれたり、炊飯器のスイッチを入れてくれたりしています。そんなさりげないサポートに胸を熱くしながら働いています。

地元の人にこそ生産者の顔が分かるおいしい野菜を届けたい

 規模が大きくなるにつれて、一緒に働く若い人が増えています。これは、本当にうれしいことです。農作業も野菜の袋詰めもみんな楽しいと言っています。(有)南会津高原ファームのスタッフは常時8人、白河の宝農産(有)は、子育てしながらパートで働く女性が13人。みんなうちの農場の元気な野菜をモリモリ食べて生き生き働いています。
 これまでAクラスの野菜は、全て首都圏に出荷されていました。食卓に一番近い農家を目指す私としては、残念な限り。しかし、震災以降、動きが変わってきています。市場より直売所に出荷する野菜が増えています。さらに最近は、畑に直接来られるお客様も増えています。南会津の農場には、水戸や宇都宮から来られる方もいます。昨年は、高原大根100本を車に積んで帰られたお客様もいました。これからは、農業者が自分で価格を決めて販売していく時代。今後も検査を済ませたおいしい野菜をどんどん直売所に出していきますので、ご期待ください。(2016年2月取材)

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