キラリと光るキラっ人さん

キラっ人さん紹介

女性が働くことを快く思っていなかった厳格な義父がイクメンに 感謝を胸に社会貢献したい若い子育て世代を後押し

  • 吉田 恵美子さん(特定非営利活動法人ザ・ピープル)
  • よしだえみこ
  • 特定非営利活動法人ザ・ピープル 理事長

ファイバー(古着)リサイクル活動を中心に住民主体のまちづくりを実践。
タイの少数民族支援活動や在宅障がい者自立支援事業など、
四半世紀にわたるピープルの活動を支え続けた家族。
今度は、私が若い子育て世代を応援する番です。

幼い娘たちを夫と義父に託し11日間の海外視察

 1990年に立ち上げ、2004年に法人格を取得した特定非営利活動法人ザ・ピープル(以下、ピープル)の活動は、いわき市主催の海外研修「第1回 いわき女性の翼」に参加したことをきっかけに始まりました。当時私は、夫と娘2人、昨年(2015年)亡くなった義父と5人で暮らしていました。厳格な義父は、女性が働くことを快く思っていませんでしたので、悶々としながら専業主婦を続けていました。夫にとって私は妻。娘たちにとっては母。では、社会にとっての私は何?と問うても、そこに“吉田恵美子”という個人のポジションは見当たりません。ストレスでした。そんなときに「いわき女性の翼」の募集を知りました。理解のある夫は、すぐに背中を押してくれました。問題は、義父でした。ところが、私が応募した小論文が採用されたと聞き「ならば」と了解してくれました。渡りに船と2歳と4歳の幼い娘たちを夫と義父に託し、11日間の海外視察に参加しました。

同郷の女性5人で立ち上げた“ザ・ピープル”

 視察先はヨーロッパでした。リサイクルのコンテナを見れば、「日本にもこんな仕組みがあったら」と、DV被害者の女性たちのシェルターでは、「日本ではどうなんだろう」と考えました。ほかにも目からウロコの学びがたくさんありました。しかし、視察と同じくらいの大きな気づきは同郷の「仲間」の存在でした。振り返れば、私一人で参加していたらピープルは生まれていなかったと思います。同じいわき市で暮らす女性たちが、私と同じような問題意識を持っていたことが日を追うごとに分かりました。そして、繋がり、時間と空間、見聞を共有して思いを分かち合えたことが帰国後、事を起こす原動力になりました。
 それがピープルです。自分たちが出来ることで地域にお返ししていこうと主婦5人で立ち上げました。問題の義父は「社会貢献をするなら…」と、認めてくれました。長くは続かないだろうと思っていたようですが、これが意外に続くので、仕舞いには「人にはそれぞれ道がある。お前の道は、どうもピープルのようだから頑張れ」と。家庭の中で私ができないところをフォローしてくれるようになりました。家族の理解というよりは、家族の忍耐だったかもしれませんが本当に助かりました。

長続きの秘訣は、対価を得られる自主事業と寛容な空気

 ピープルは、理事と監事が10名(男性3人、女性7人)。常時活動しているメンバーは、有償ボランティアと雇用も含めて55名。そのほとんどが女性です。四半世紀にわたって続けてこられたのは、古着を回収して店舗でリユース販売することで得られる対価があること。子どもを連れて参加できる寛容さを持っていることが大きいと思います。
 自分たちの地域の問題を、自分たちで考え、解決のために主体的に行動する「住民主体のまちづくり」を押し進めていこうと、「ファイバー(古着)リサイクル事業」を中心に9つの事業を展開しています。活動のベースとなる「古着回収・仕分け等リサイクル基盤事業」は、県内8市町村に回収ボックスを設置し、集めた古着を仕分けてバザーや店舗で販売しています。売れないものは、資源化するなどして90%以上を再利用しています。
 2つ目の「在宅障がい者自立支援事業」は、リサイクルショップをオープンさせる時に、単なるショップではなく地域の皆さんの交流の場にしようと思い始めました。店名も「ピープルコミュニティセンター」とし、障がいを持っている人の雇用に繋いでいます。
 そうこうしているうちに、ささやかですがリサイクル事業で収益金が得られるようになりました。この収益額では「国内ではたいしたことは出来ないけれど海外なら」ということになり、前代表とご縁があったタイの少数民族を支援する「海外生活支援・教育支援事業」が始まりました。4つ目が私たちの活動を会報やホームページで発信する「情報発信事業」です。「ワークショップ・講演会・市民啓発活動」と「関連団体との交流・連携・協力事業」は、もっと意識を高めたいという声を力に、さまざまな学びと繋がる機会を提供する事業として取り組み始めました。「災害救援関連事業」と「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」は、震災を機にスタートさせた事業です。私たちは、これらを含めた9つの活動を連関させながら実践することで、地域の課題を自らの手で解決しようとする住民として成長し合っていけると考えています。

有償制度を取り入れて女性の社会参画を後押し

 任意団体時代も含めると25年になるピープルですが、その間には、メンバーの入れ替えもありました。自主事業の収入で活動していけると言っても無償ボランティアは、なかなか長続きしません。どんどん人手が少なくなり、ピープルと言いながら古着の仕分けをしているのは私一人という時期もありました。そこで、私が代表になった時に思い切って「有償ボランティア」を取り入れることにしました。僅かなのですが報酬を支払う仕組みを作ったのです。もしかしたら社会の役に立ちたいと思っても無償という部分で考えてしまっている人たちがいるんじゃないかと思ったのです。いくら良い事をしても家族に申し訳ないと思いながらでは長続きしません。有償化することで「自分で得たお金で貢献している」と、家族に堂々と言える仕組みを作れば「私も」と、手を挙げてくれる女性が増えるのではと思いました。期待通りでした。以来、関わってくださる人の層が広がりました。みんな頼もしい仲間です。

善意がすべての垣根を越えて繋がっていく喜び

 月例ミーティングには、セクションごとの代表が集まります。15人くらいになるので結構な人数です。そこで課題と方策、新たな取り組みなどを話し合いながら進めています。小名浜地区復興支援ボランティアセンターや交流サロンの運営、農業の再生を目指す「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」もそうですが、ピープルの取り組みは、どれもほんの入り口に過ぎません。でも、関わることで自分に何ができるのか暮らしを振り返るきっかけになります。足かけ7年、ピープルの奨学金を受給しているタイの大学生は、昨年くらいから貧しい地域の子どもたちを支援するサークルのメンバーになって活動を始めました。私たちの支援が彼を育て、今度は彼の支援がタイの子どもたちを育てるのです。善意がすべての垣根を越えて繋がっていくことを彼が身をもって教えてくれています。こんなうれしいことはありません。
 そして、ご多分に漏れずピープルも高齢化が進んでいます。乗り越えるカギは、やはり“人”、そして“繋がり”だと思っています。一人が出来ることって限られてしまいますが、繋がることで出来ることは何倍にもなります。社会的な活動に興味があっても、私より若い子育て世代には、生活があります。震災の後、ボランタリーな形で入ってきた若い仲間たちの社会参画については、補助事業を受託するなどして雇用という形で後押しをしてきました。もちろんこれからも継続して行けるよう努力あるのみです。(2016年1月取材)

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